第14章 ひととき
それから僕たちは少し休憩をしよう、と木に寄りかかって座り込んだ。夢中になって走っていたから気づかなかったけど、僕の足は枝に引っ掛かってかすり傷だらけだった。
「可哀想に……今すぐ治してやりたいが……」
と炎蛇は僕の足の怪我を見てそう言った。
「炎蛇って、炎の蛇のことでしょう? 蛇って魔法使いなんだね」
僕は怪我なんかよりも、炎蛇がやったのだろう火の海の方が気になっていた。今思えば僕はこの時から、蛇が喋ったり魔法を使ったりなどの不思議なものの受け入れが早かった。
「私たちは魔法の蛇なのです。魔法を使わない蛇もいますよ」と炎蛇は言った。「ところで、貴方様はどうしてここに?」
今度は僕が答える番。僕は、光を追いかけてここまで来て、最終的には崖から突き飛ばされた話もした。光があの建物の中に入っていった話もしたが、途中で見失っていたこと、ここに来るまで光のことなんて忘れていたことを僕は思い出した。
「光……不思議な現象ですね……」
僕の話を聞き終えると、炎蛇は考え込むように地面を見つめた。その口ぶりから、光の正体は炎蛇の仕業ではなさそうだ。
「闇蛇、貴方は何か知っているのではないですか?」
それから炎蛇は、僕たちと少し離れたところでグルグル巻きになっている闇蛇へ目を向けた。闇蛇はつまらなそうに、細い舌をペロリと出した。
「光といえば、白蛇の魔法だろう。他に誰が光の魔法を使うんだよ」
と闇蛇はふてぶてしく言ったが、白蛇という単語を聞いて、僕は白桃神社のことが頭に浮かんだ。
「白蛇って本当にいるの? おばあちゃん家の隣に、白蛇の神社があったよ」
そう僕が言うと、炎蛇は驚いたような仕草をした。
「白蛇神社を? 今は実在しないはずですが……」
「ううん、白桃神社っていうんだ」
魔法使いの炎蛇も知らないことがあるんだなぁ、と思いながら僕が言うと、炎蛇はまた考え込むように地面を見た。
僕はそんなことより、早く帰りたいと思った。周りを見るとずっと暗い森だし、空だって見えないくらい葉っぱが沢山生い茂っていた。それらを眺めているとどんどん不安になってきて、僕はこのまま帰れなくなるんじゃないかと思ってきた。