第12章 鍵
「鍵持ってきたよ」
と僕が鍵の束を見せると、赤い蛇は喜んでいるように見えた。
「おお、ありがとう、小さな勇者よ」
蛇が僕のことを勇者って呼ぶから、ちょっと嬉しくなった。僕、勇者になったんだ。
だけど鍵が沢山あり過ぎて、赤い蛇のいる牢屋の扉がなかなか開けられなかった。みんな似たような形をしているのに、全然鍵が開かないのだ。
「大丈夫ですか?」
赤い蛇は心配そうに顔を覗き込んできて、僕は焦ってきた。
「鍵がいっぱいあって、どれか分かんないよ……」
すると後ろの黒い蛇がまた嫌な態度をとった。
「そこには牢屋の鍵なんてねぇんじゃねーか?」
人間のすることなんて何も信じられない、と黒い蛇は言う。鍵は全部持ってきたのに……他の場所にも鍵があったのかな? と僕は不安になった。
「そこで何してる!」
そんな時、とうとう見回りが僕に気づいたみたいだった。牢屋の入口に人……ではない! 顔が蛇になっている化け物だ!
僕は足が竦んでその場から動くどころか、声も出せなかった。恐怖のあまり鍵を落としてしまったし、僕はもうダメだと思った。
「反乱者だな! 裏切り者はこっちに来い!」
その化け物が何を言っているのか分からないまま、僕の手首はソイツに捕まった。
「痛い! やめてよ!」
と叫んでも、ソイツは無視して僕を牢屋から引きずり出そうとしていた。
ごめん、赤い蛇さん……そう思って遠くなっていくオリを振り向いた時、鉄柵の扉が開いているのが見えた。あれ、僕開けたんだっけ……しかし思考は、次に見えた炎で掻き消された。
ゴウッ!
炎はまるで伸びる手のように、僕の左右を通り過ぎて化け物を貫いた。
「なんだ、この炎は……!」
とソイツが騒ぎ出した時には牢屋はあっという間に火事になっていて、僕は火のど真ん中に立っていたのに、全然熱くなくて戸惑った。どうなってるの……?
そこに、あの赤い蛇が僕の足元からするする登ってきた。びっくりしたけど、そんなに不快感はなかった。むしろ、温かくてくすぐったかった。
「間に合って良かった……ありがとう、私の恩人よ」
最後に僕が差し込んだ鍵が、赤い蛇のオリを開けたらしかった。僕は笑ってみせた。
「良かった。僕、勇者になったんだね」