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あの日見た桃の思い出

第11章 出会い


「あれ……?」
 裏口に入った途端、その光は跡形もなく消えてしまった。
 まだ近くにいるんじゃないかと、そこにあった箱を開けてみたり、フタのないツボの中身を覗き込んだりしていると、突然悲鳴が聞こえたのだ。
「も、もう許して下さ……ひぃえっ!!」
 その声は、近くにある建物の、高い窓から聞こえていた。棒みたいなのを縦に何本も渡しただけの窓なんて、まるで昔話の世界みたいだ、なんて思いながらも、僕は好奇心のままそこら辺の箱を積み上げて窓を覗き込んだ。
「ひぃえ、に、人間様っ?!」
 そこにいたのは、真っ赤な色をした赤い蛇だった。僕は、蛇は噛みついてくる強い生き物だと思っていたから、そんなに怯えている蛇がちょっと珍しかった。
「僕、迷子なんだ。お家がどこにあるか分かる?」
 赤い蛇がどういう状況に置かれているのか考えもしないまま、この時の僕は自分のことしか考えていなかった。
「そ、それは……私には分かり兼ねます」と赤い蛇は言って横を向く。「私はここに閉じ込められて何十年にもなりますから」
 そこでようやく僕は気づいた。赤い蛇は鉄柵のオリの中にいて、よくよく見たら頑丈そうな鎖が蛇を不自由にしていたのだ。僕はどうして蛇がそんなところに捕まっていたか知らなかったから、可哀想だと思った。
「僕、助けてあげる。だから、僕のこと噛まないって約束してくれる?」
 どうやって助けるかまでは考えないまま、僕はそう言った。赤い蛇はその黒い目でじっと僕を見上げた。
「もちろんです、人間様。恩人を噛むことはしません」
「分かった」
 僕はぴょんっと箱から飛び下りて、赤い蛇がいるところの入口を探した。この時にはすっかり、光のことなんて忘れていたのだ。
 入口は簡単に見つけた。壁に沿って歩いたらすぐに見つけたのだ。周りに人も蛇もいなかったし、鍵は外から開けるものだったから中にも簡単に入った。だけど中に入って僕はびっくりした。
 そこには沢山のオリがあって、そこには一匹ずつ蛇が捕まっていた。僕が知っている白や黒い蛇じゃなく、緑色とか青色とか、ピンク色をした蛇もいた。
 しかも蛇は、僕が歩く度に怯えてオリの奥の暗がりに消えてしまう。僕が覗き込むと蛇の細い目だけが光って見えるみたいだった。目の色もそれぞれカラフルで、こんな蛇もいるんだな、とどこか呑気に考えていた。
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