第10章 光
外はまだ真っ暗だったが、ぼんやりと光が通ったのが見えて、おじいちゃんが果樹園の方にでも行ったのだろうかと思った。僕はサンダルを履いて外に出る。しんっと静かな闇が目の前に広がっていて、少し離れたところで光だけが浮かんでいた。
「おじいちゃん……?」
呼びかけると光はそっと離れていく。僕が一歩前に出るとまた光が離れる。僕はそれを繰り返して、やがておじいちゃん家が見えなくなって気がついた。僕は迷子になったのだと。
「帰らなきゃ」
と僕は言ったが、光が僕の前に回り込んでそうはさせなかった。光がこんなに近くにあるのに、光を持っている人物がいつまでも暗くて見えない。
さすがに僕は怖くなって、光を避けて走り出そうとした。けれども光はどんっと思い切り押してきて、僕はよろけてそのままごろごろ転がった。
僕は崖の上に立っていたのだ。光に押されて僕は枝や草に引っ掛かりながら、柔らかい土の上でゴロゴロ転がった。蛇に噛まれた手がますます痛かったのをよく覚えている。
ようやく止まって立ち上がると、見たこともない建物の壁が見えて僕は息を飲んだ。神社にあるみたいな白っぽい壁で、和風建築というやつだった。だけど新品みたいに綺麗な壁で、僕は壁に沿って歩いて誰かいないか探してみた。
そして、僕は見た。提灯の明かりに照らされて人ではない影がずらずらと並んでいるのを。
僕は今度こそ噛まれないように、壁からそっと顔だけ出してその列を見てみた。そこには、色んな色をした蛇が、一列に並んでどこかに向かっているのだ。それは大きな門まで続いていて(この壁の向こうだ)門番の顔を見て声が出そうになったのを慌てて自分で口を抑えた。
門番は人間の体みたいなのに、顔が蛇なのだ。
僕、どうしてこんなところに来ちゃったんだろう。僕は来た道を引き返して僕を突き落とした光を探したが、壁の向こうが明るいばかりで他は草木ばかりだった。
とその時、僕を突き落とした謎の光だけが、ふっと目の前に現れたのだ。アイツに帰り道を聞こう。僕が歩き始めると光は逃げるようにどこかに行った。僕は負けじと走って追いかけた。全てはあの光のせいでこんなことになったのだ。絶対帰り道を聞いてやる!
そうして僕は、光を追いかけて、白い壁の向こう側……裏口みたいなところから、中に入ったのである。