第19章 舞台
僕たちが入った建物は、何かの催し物をするような小さな舞台があるところで、客席はすでにほとんど埋まっていた。
「ドズさん、ここ空いてますよ」
おんりーが空席を見つけてくれてそこに座ると、みんなも近くの席に座って。僕たちはその時が来るのを待った。
間もなく、舞台が照らされ、賑やかだった客席が静かになる。舞台の袖から司会らしき人物が出てくるが……なんだかネコおじみたいな人で思わず声が出そうになった。
「さぁ、皆さんお待ちかねのお時間です!」と司会役が話し出す。「今回来てくれたのは、今年のMJグランプリ優勝者のケンシさんとぼんじゅうるさんです! ではどうぞ!」
なんだか聞いたことのある単語を耳にしながら僕は舞台に出てくる二人を見守った。二人が登場すると観客席からますます拍手が巻き起こり、かなりの人気者だということが伺えた。
「どーもどーも!」
「どーもでーす!」
そして、拍手と共に現れたのは。
知らない男の人と、ぼんさん。
「いやぁ、今日はぼんさん、どうですか?」
「こんなに沢山の方が集まって頂いてちょっと緊張してて、ついさっき水を零しちゃったんですよ! それで……」
僕は、彼らの言葉が全く耳に入ってこなかった。
ただ、ぼんじゅうるが知らない誰かの横に並んでいて、ネタを披露しているのを眺めていただけで。
僕は、一瞬でもこう思ったのだ。
僕と出会わなかったぼんさんは、お笑い芸人になっていたかもしれないのか、と。