第10章 帰り道
「雪は滑りやすいから、気をつけて帰ってね」
「はーい!」
おらふくんは長過ぎる袖を僕たちに元気よく振った。その返事を聞いて、子どもでも、キャラクタービジュアルでも、彼はおらふくんなのだと痛い程よく分かった。
けど、引き止めなかった。この世界では本物のMENを見つけたみたいにドズル社メンバーを見つけることが正解なのかもしれないが、少なくとも少年おらふくんを呼び止めるのは、今ではないと僕はそう思った。
「いいんすか? 行かせても」
MENが少し不安そうに僕に聞いてきた。僕は頷いた。
「おらふくんが僕たちに会うのは、ずっと先のことだろうから」
パラレルワールドのことは聞いたことがある。もしここで出会った少年おらふくんが僕と出会わない世界線のおらふくんだったら、僕たちのことは忘れて違う道に進むだろう。でも、ここで引き止めて一緒にここから脱出したとしても、僕の知っているおらふくんは、もうそこにはいなくなる気がして。
「それに、あのままのおらふくんじゃないと、おらふくんじゃないよ」
あのままでいい。このままでいい。僕たちはそうやって、いつもおらふくんを止めたりはしなかったはずだ。今までだって、これからだって、きっと。
「……そうっすね」
MENはニカリと笑った。だから僕も笑った。さぁ、帰ろう、僕たちも。この変な夢の醒め方までは、まだ分からないけど。
僕がもう一度おらふくんの方を見た瞬間、眩い光に包まれて、目を開けられなくなったのだけは覚えている。