第8章 導け?
「えっ……と自分の名前とかは覚えてる?」
僕は、少年おらふくんに驚いていることに悟られないようにそう聞いた。するとなんとおらふくんは自分の本名を名乗りだし、小学校の話までし出したのだ。
小学校の話までは知らないけれど、本名を聞くところ本当におらふくんで間違いはなさそうだ。けれどどうして子どもになったのだろう。僕は困惑してMENを振り向くが、MENも分からないと肩を竦めるばかりだ。
おらふくんが小学生くらいになった世界なら分かる。だとしたらどうして、キャラビジュのまま子どもになっているのか。世界観や時代がよく分からない。だけど多分、僕たちがここで何をするかは、なんとなく気づいていた。
「君は、どうしてここにいたか覚えてる?」
僕は少年おらふくんに訊ねる。少年おらふくんは考え込む素振りを見せたが、結局は「分かんない」と返事をした。
僕はもう一度MENを見、視線を遠くに投げた。おらふくんの後ろには、いつの間にかいくつもの扉がずらりと現れていていかにも怪しげな雰囲気だ。あの扉のどれかがここからの脱出方法かもしれないが、違う扉を開けたらどうなるのか、想像がつかない。
そして、その扉のどこかには進まないと、おらふくんの記憶は戻らないのかもしれない、ということも。
「僕たちは、ここから出る方法を探していたところなんだ。君もここから出ない?」
「出る……?」
少年おらふくんは首を傾げる。ちょっと難しい言い方だったかも。
「ここから出てお家に帰ろう?」
「帰る!」
そうして少年おらふくんが立ち上がると、やはりその背丈の低さに僕はびっくりした。見た目は3Dの世界から飛び出したキャラクターみたいだ。そして、突然現れた僕たちを疑うことすらしないおらふくんの危うさに、ちょっとヒヤヒヤして。
「おらふくんって、昔からあんな感じだったのかな?」
と僕が走るおらふくんを見守りながら小声で呟くと、隣でMENが小さく笑った。
「そうかもっすね。子どもなのに、いつものおらふくんみたいっす」
やがて少年おらふくんが、いくつもある扉の一つに止まって僕らに呼びかけた。
「ねぇお兄さんたち! お家はどこから帰るのー?」
僕たちは少年おらふくんの元へ向かった。