第35章 闇の男爵夫妻
少し顔を横にずらすと、自身の頬に添えられていた彼の掌に口付けを落とす。
そんな彼女の仕草を、降谷は黙って見つめている。
既に亡くなった仲間達との絆や、意思を継いでいる事もあるのだろうが、きっと例えそれがもしなかったとしても…
元々正義感が人一倍強いのだろう。
出会ってから今の今までの彼の様子を隣で見てきて、椛はそう強く感じていた。
降谷「椛…」
椛「うん?」
降谷「俺は周りに…
他人に、なんと思われようと一向に構わない。
それが自分の正義に繋がるのなら。
今まで、ずっとそう思って生きてきた。
これからも、正義のためなら俺は手段を選ばない。
けど、椛を悲しませる事は…
少し罪悪感があるな。」
椛「零…」
意志の強さと、真っ直ぐな正義感を宿した彼の瞳。
そんな美しいライトブルーの瞳が好きだ。
その瞳の持ち主の彼は今、少し困った様で、切なそうな表情を目の前で浮かべている。
彼の頬に手を這わせて、シャープで美しいラインを描くフェイスラインの形を確かめる様に手で辿る。
彼は間違いなく、公安内でも取り分け優秀な潜入捜査官である事は間違いない。
しかし、出会った時からずっと感じていたが…
ジッと彼の瞳を見つめていると、いつもなんとも言えない庇護欲が湧き上がってくる心地がする。