第35章 闇の男爵夫妻
彼女に思い切り深く口付けたい衝動が、ワッと一気に身体中を駆け巡る。
そんな衝動的な本能をグッと抑えて、触れるだけの口付けを軽く落とした。
降谷「…俺も椛の事が好きだ…
だからどうか教えてくれないか?
今日、俺の大切な人を悲しませた原因が一体何なのか。」
彼女の頬に手を這わせると、ジッと視線を合わせる。
彼の手から伝わる温もりが心地よい。
その彼の手に自身の手を重ねると、少し重たい口を開く。
椛「『バーボンは、君を利用するつもりで、近づいて来たのかも知れない。
何か企んでいるかもしれない。
自分の都合の良い駒にするために、恋人を演じているだけかも知れない。』」
降谷「…」
椛「そんな様な事を定期的に、人から言われる。」
彼女の言葉を耳にすると、表情は変わらないが、目の前にあるライトブルーの瞳の奥だけは少し、悲しげに揺れている様に見えた。
椛「彼らの立場からしてみたら、そう思う事は自然な事だと思うけど…
私は悔しい…」
降谷「悔しい?」
椛「こんなにも、真っ直ぐで正義感溢れる貴方が、必要悪を演じ続けなければいけないなんて…」
降谷「椛…」
椛「しかも思いっきり悪人扱いされてる…
まぁ、バーボンだと思われてるから仕方がない事だと、分かっては居るのだけど…
なんか、頭では理解しているけど、悔しいし悲しいと言う思いが湧き出てしまう感情は、完全には止められない。」