第35章 闇の男爵夫妻
椛「…れぃ?」
キスの合間に声をかける。
降谷「ん…」
椛「今日に限った…事じゃ無いんだけど…」
彼女の雰囲気から、先程の質問の答えを返してくれると感じ取ったのだろう。
話を聞くことを優先しようと、少し名残惜しそうに唇が離れていった。
降谷「うん?」
椛「今日は少しい悔しいと言うか…
悲しいと思う瞬間がいつもより多くて…
疲れてただけだと思うよ?」
その言葉に、少し顔を離すと、顔を覗き込む様に見つめてくる。
降谷「それは、俺も関わりがあることか?」
椛「うん、そうだね、無いことはないけど…」
降谷「じゃあ話してくれないか?
椛を悲しませている原因が俺にあるなら、それを払拭したい。」
真っ直ぐ紡がれる言葉と、真っ直ぐ注がれる視線。
彼の瞳には一点の曇りもない。
『彼女の悲しみを払拭したい』と言うのは、彼の心からの本心だろう。
出会った時から変わらない。
実直で、正義感溢れるその姿に思わず顔が緩む。
椛「私、零のそういう所、とても好きよ…」
説明の続きが来ると思っていたが、彼女からの言葉は、思っていた返答と異なった為か…
少し面食らった様に降谷は目を見開く。
降谷(全く本当に…この人は…)
『欲しい時に欲しい言葉をくれる』とは、こういう事を言うのだろうか。
自分でも気付いていないちょっとした隙間を、彼女はいつも埋めてくる。
出会った頃からそんな感覚があった。