第35章 闇の男爵夫妻
降谷「椛…
今日…
やっぱり、何かあった?」
まだ少し気だるい脳内に、耳心地の良い彼の声が耳に入る。
汗でしっとりと濡れた肌が重なり、彼の腕にしっかりと抱き寄せられて、彼女は呼吸を静かに整えていた。
彼の胸に埋めていた頭を、軽くあげると大好きなライトブルーの瞳がすぐ目の前にあり、視線が重なる。
先程までの熱を孕んだ猛々しさは引き始め、穏やかな雰囲気が、彼の瞳の色を覆い始めている。
間接照明のみの薄暗い寝室の中でも、彼の瞳はキラキラと輝いて見えた。
椛(綺麗だな…)
汗ばんだ肌に張り付いている彼の前髪に手を伸ばすと、前髪をかき上げ、普段は隠れている額を外気に晒す。
前髪を下ろし、実年齢よりも幼く見える彼も好きだが、前髪を上げるとやはり男気が更に上がる気がして…
そんな彼の変化に少しドキリとした。
心の疼きを隠すように、いつものトーンで返事を返す。
椛「…ん?
…いつも通りの日常だったよ?」
降谷「…本当に?」
椛「…うん、なんでそんな風に思ったの?」
降谷「う〜ん…
前回よりも甘えたと言うか…
…可愛くて
…激しかったから?」
椛「えっ!?」
彼の言葉に一気に顔に熱が籠る。
彼の髪質を楽しむように撫ぜていた手を、パッと離す。
距離を取ろうと離れようとするが、それを察知した彼がさせまいと、逆に強く抱きしめる。
その反動で、彼女の頭は再び彼の胸の中に埋まった。