第35章 闇の男爵夫妻
普段は公安の潜入捜査官として任務に当たっている彼が、真剣に梅干し一つと対峙している姿を見ると…
ギャップ萌えが過ぎる。
声を出して笑いたい気持ちをグッと堪えて…
彼が、梅干しを飲み込んだタイミングを見計らって、声をかけた。
椛「お味はどうですか?」
降谷「うん…
確かに3年ものの方がまろやかさがあるけど…
1年ものはこれはこれで…
めちゃくちゃ上手いよ!」
満足そうに笑みを浮かべる彼の姿を見ていると、こちらも嬉しくなる。
椛「ふふふっ♪
そっかそっかw
それは良かった。
今日漬けた分も、来年仕上がって味見するの楽しみだね♪」
降谷「あぁ…」
一度、手に持っていた箸とお椀をテーブルに置くと、隣に座る彼女をふわりと抱きしめる。
降谷(一年後の約束をしてくれるのか…
悪く無い…)
彼女の首筋に顔を埋めると、いつもの…何とも言えない甘い香りがする。
その香りを嗅ぐと降谷はいつも、酷く落ち着く心地がした。
降谷「今からとても楽しみだ…」
椛「うふふっ♪
そうね…」
食事中に行儀が悪いかもしれないが、椛も手に持っていた箸とお椀をテーブルに置いて、彼を抱きしめ返す。
至って普通の夕飯の光景かもしれないが、なんだか今日はいつもにも増して、『こんな平和な時間がずっと続けば良いな』と、心から思わずにはいられない…
そんな2人きりの夕食の時間だった。