第35章 闇の男爵夫妻
回されていた腕が片方解かれる。
そのまま頬に添えられて、顔を後ろに向かされると、彼の柔らかい唇が降ってくる。
求めていたものが降ってきて、それに応えるように片腕を上げると、彼の後頭部に手を添える。
ライトベージュ色の柔らかい髪の中へ、手を埋めた。
唇の弾力を楽しむかの様な彼の愛撫に、腰が疼く。
椛(今日、早く帰ってきて正解だったかも…)
そんな事を蕩けた脳内でぼんやり思いながら、結局そのままお互いが満足するまで、愛しい彼の口付けに応えていった。
リップ音と共に重ねていた唇を解放すると、欲望の色を灯した彼の瞳と目が合う。
そんな瞳をジッと見つめていると、その先を期待して、求めてしまっている自身がいることを嫌でも感じる。
彼も理性と欲望の狭間で揺れ動いているのか、すぐ目の前にある大好きなライトブルーの瞳が揺れていた。
そんな瞳の輝きを見ていると、このまま目の前の事を全て放棄して、欲に埋もれても良い気がしてくるから、感情の扱いに困る。
彼は彼でこちらの出方を待っているのか、それとも必死で欲望を抑えているのだろうか。
後頭部に回していた手を彼女の長く黒い髪に埋めて、感触を味わう様に解き始めた。
解いた髪を一房手に取ると、ゆっくりとした動作で口元まで寄せ、髪に口付けを落とす。
目の前で繰り出される、映画のワンシーンの様な…
何ともいえない甘美な情景に、彼の仕草をずっと眺めていたい気持ちが湧き出る。