第35章 闇の男爵夫妻
暫くそのまま口付けを堪能していたが…
この状況にしっかり反応している自身に、流石にこれ以上はまずいと思い、ゆっくりと唇を離す。
すると、少し名残惜しそうに離れた彼女と瞳が重なった。
椛「玄関先で引き留めちゃったね…
どうぞ上がって?」
履きっぱなしだった靴を脱ぐと、揃えて置き直し、彼女に手を引かれながらリビングに向かう。
降谷「今日はいつもより、長いお帰りのキスだったな。」
嬉しそうでもあり、少し揶揄うように聞こえてきた言葉に、仕返しとばかりに素直に本音で返してみる。
椛「零のキス、凄い気持ち良いからつい…
長くなっちゃった♪」
先ほどの準備の続きをしようとキッチンに入った椛と、荷物をリビングのソファに下ろそうとしていた降谷。
彼女がいるキッチンの方に目を向けると、オープンキッチン越しに、楽しそうに微笑んで、こちらを見つめている彼女の姿が目に入った。
荷物を下ろしてキッチンに近づくと、何事もなかったかの様に、作業の続きをし始めようとしている椛。
そんな彼女を後ろから包み込むように、抱きしめる。
普段外でヒールを履いている彼女も、家の中では本来の身長差に戻る。
腕の中にすっぽりと収まるその体格差に、護るべき存在だと、愛慕の想いが胸に広がる。
降谷「…俺の事、煽ってる?」
目の前に回された彼の逞しい腕に、椛は優しく手を添える。
椛「煽ってないよ。
もうちょっとキスしていたかった、ってだけ。」
降谷「そういうのも…
煽ってるって言う…」