第35章 闇の男爵夫妻
それでも、目の前に座るこの人物は、頭がずば抜けて切れ、世界に名を轟かす推理作家。
1つの判断ミスも許されない。
まだ、工藤優作が彼の本当の正体に辿り着けていない事は…明らかだ。
話しても問題ないとは分かっている話でも、情報を1つでも漏らす事に躊躇する。
だが、それよりも…
椛「優作さんは、有希子さんと2人きりで居る時間を…
その時の様子を……
夫婦2人の時間の出来事を、周りにベラベラ話したりはするのですか?」
この質問に、僅かに反応を示したのは有希子の方。
一瞬目を見開くように、表情を変えた瞬間を彼女は見過ごさなかった。
もちろん、有希子の表情はすぐに元には戻ったが…
表情を変えずに、様子を伺っている沖矢を横目に、椛は淡々と話を続ける。
椛「新一君の両親として、私の事を疑うことも、彼の事を探る気持ちも、立場的にはよく分かります。
けど…
彼と私が、2人でどんな時間を過ごしているのか…
それは今の状況を踏まえたとしても、正直、誰かに話したくはないです。
彼と過ごす2人の時間は、2人だけの物に留めておきたい…」
椛のその言葉に、室内は更にシンと静まりかえる。
そして優作はそれに対して、何も言葉を返さず…
それ以上何か足を踏み入れるような質問はその後、してくる事は無かった。