第35章 闇の男爵夫妻
有希子「優作〜♪
椛ちゃん、連れてきたわぁ。」
有希子の言葉に、深く座り込んでいたソファから立ち上がると、椛の方に向き直る。
優作「初めまして。
工藤優作です。
ようこそ我が家へ。」
椛「初めまして、結城椛です。
こちらこそお邪魔します。」
朗らかで優しい笑顔を讃えている優作。
どっからどう見ても、良い男感溢れる紳士でしか無いその見た目と所作に、思わず…
椛(眼福だわ…)
と心の中で呟く。
挨拶が終わると、優作は『どうぞ』と言って、ソファに座るよう手をソファへ向けた。
そんな些細な所作でも、何故かいちいち絵になる。
そして椛はそのまま素直に空いている席に、腰をかけた。
優作「彼から聞いたよ。
定期的にうちに講座に来てるとね。」
そう言って優作は斜め横のソファに座る、沖矢に目を向ける。
同じように椛も沖矢に目を向けるが、変装して細めた目からは、何の感情も読み取れなかった。
優作「我々の息子の事も。
置かれている状況を理解していると…
新一から聞いているよ。
もちろん、君の恋人の事もね。」
そこで、ピクリと一瞬沖矢の眉が動く。
そのわずかな変化に周りは気付かない。
優作から話を振られている椛は、何だか尋問されている心地がしてきていた。