第29章 川品中央総合病院
安室「抜糸は終わったんたぞ?
もうそろそろ…
これ以上のお預けは、耐えられる気がしないんだが…」
彼からの言葉の真意が分かり、一瞬面くらう。
そして今日抜糸をした傷あと周辺に、手を這わせてくる。
布越しに、彼の手の温もりを感じる。
彼が言う通り、確かにずっと『待て』状態な現状は理解しているが、こうして直接言われると、その先の事を考えてしまい、体の中心がうずく感覚がした。
言葉を返さずに、ジッと彼を見つめ続ける様子の彼女に、一度引いたのは安室の方。
安室「…椛さんが嫌がる事も、無理強いもしたくないし、『待て』と言われれば待つよ。
傍で貴方が穏やかに眠っている姿を見れるだけでも、十分幸せだ。」
彼の優しさが伝わって来て、胸の中が一気に熱くなる。
彼の言葉からも、もちろん今までの行動からも、どれだけ大切に扱ってくれているか…
椛も理解していた。
頬に添えられている彼の手に、自身の手を重ねる。
揺れる彼のライトブルーの瞳が、瞬きをすると、熱が灯り始めたような輝きを見せた。
椛「いつも、私の身体の事を1番に気遣ってくれてありがとう。
待たせてごめんね。
『待て』終了でいいよ?
私も零に触れたいよ…」
空いているもう片方の手を彼の方に伸ばそうとすると、手を掴まれて止められる。
椛「?」
先程まで視線がしっかり重なっていたのに、安室は急に目線を逸らすと、少し下を向いて軽く俯いた。