第29章 川品中央総合病院
彼女を見つめる瞳は、大切な物を突如奪われた子供のような目をしていた。
御守りを持っていない方の左手を伸ばし、彼の頬に触れる。
伝わる体温から、彼がちゃんとここに存在している事を感じた。
椛「その時は、私も一緒に長野に連れて行って。」
安室「あぁ、もちろんだよ。
一緒に行こう。」
安室は彼女のその言葉に、少し安心したような、穏やかな笑みを浮かべていた。
椛「そのスマホも、まだ安室さんが持っているの?」
安室「いや、俺の手元にはもう無い。
班長経由で、諸伏警部に渡るよう手を回した。
諸伏警部とは直接話しては無いが…
あの人なら、それだけ見ればヒロの実状を理解したと思う。」
彼の話を聞いて、少し疑問が浮かんだ。
以前、長野から帰って来てから直ぐに、講座を受けに来た高明。
講座の後に色々2人で話をしたが…
景光が亡くなっているという様な言い回しは、高明から見受けられなかった。
椛(亡くなっている事、今の零の話からすると…
高明さん、本当は知ってたのかな?
けど、知ってたなら、なんであんな言い回ししてたんだろ…
知っててわざと、私に隠してたのかな…
もちろん私に言う義理もないだろうけど…)
なんとなく引っかかり、高明と話していた時の事を思い出す。