第29章 川品中央総合病院
安室「遺体は、回収出来なかったんだ…」
椛も、薄々
『そうだったんだろうな』
と思ってはいたが…
実際言葉に出されると、その現実が胸に重くのしかかる。
安室は懐から御守りを取り出すと、口の紐を緩めて、彼女に中身が見せるように渡した。
彼から渡された御守りの中身を覗き見る。
椛「これ…」
安室「遺体は回収出来なかったが…
せめて何か持ち帰りたいと思って、拝借したんだ。」
御守りの中身は4〜5cm程の長さでカットされ、白い糸で束ねられた髪の毛が一房入っていた。
安室「俺が持ち出せたのは、そのヒロの髪の毛一房と、拳銃でヒロの心臓と共に撃ち抜かれた、スマホだけだったよ…」
椛(スマホ…
秀一が前に言ってたスマホか…
零が回収してたんだ…)
御守りの中身を見つめ続けながら、固まってしまった彼女に手を伸ばすと、御守りを持っている手に自身の手を重ねる。
手を重ねられた事で、彼女の視線は彼に移動した。
2人の視線が重なる。
安室「昔…
学生の頃、諸伏家の本家の墓は長野にあると、ヒロは言っていた。
いつかそこに納められたらとは思っているんだが…
中々俺が手放せる決意ができなくてね…」