第29章 川品中央総合病院
男「邪魔だ!どけ~~!!」
安室は男の前に立ちはだかり、そのまま男と対峙すると、振り回してくる刃物を難なく避けながら、男に声をかけた。
安室「逆恨みは良くない。
こんなことしても亡くなった奥様は戻って来ませんよ。」
男「お前に何が分かる!
彼女は俺のたった一人の大切な家族だった!」
安室の言葉は聞き入れず、がむしゃらにナイフを振り回す。
安室(交通事故か…
突然大切な人を無くす辛さは、分からないでもないが…)
幾ら振り回しても、全く当たらない事にイラついているのか、疲れたこともあるのだろう。
男の動きが大分鈍って来た。
安室(そろそろか…)
安室は、ナイフを持ち、突き出された腕を一瞬で掴むと、ギリギリと締め上げる。
男「痛っ…」
締め上げられる手ではナイフを持っていられず、男の手からナイフが零れ落ちる。
音を立ててナイフが床に落ちると、落ちたナイフを安室は足で滑らせ、遠ざける。
その様子を見た男は、空いている方の手を後ろに回し何かを取り出すと、廊下の先にいる医者に向かって投げつけた。
安室「!?」
椛「危ない!」
男が投げたものは隠し持っていたもう一本のナイフ。
椛は、少し後ろで立ち尽くしている医師の手を急いで取ると、飛んでくるナイフを避けるように、医師を庇いながら床に伏せる。
ナイフは椛のフレアスカート部分をわずかに掠りながら、そのまま床に音を立てて落ちた。