第29章 川品中央総合病院
刃物を持った男は、喚き散らしながら、刃物を振り回し続け、誰かを呼んでいる。
男の喚き声を聞いているとどうやら以前、この病院に交通事故で救急搬送された妻を亡くした様だ。
医療ミスで訴えたが敗訴したため、その当時の担当医師に逆恨みで復讐することが目的の様だ。
その時の担当医師を出せと、病院のスタッフに続け様に怒鳴り散らしている。
椛は現場に近づこうと足を踏み出すが、前を阻むように安室の腕が彼女の前に出てきて、踏み出した足を止めさせた。
安室「椛さんはここで待っていてください。」
安室は刃物を振り回している男から目を離さずに、彼女に告げる。
彼の、いつもとは異なる張りつめた雰囲気から
『今日は流石に、口を出さない方が良いかも』
と思い、ここは素直に応じる。
男が言っている医師が、事情を聞きつけたのか、先ほど安室と椛が歩いて来ていた廊下の奥から出て来た。
椛は男に目線を向けていたが、男の声に後ろを振り返ると、先ほどまで診察室で顔を合わせていた女性医師の姿が。
どうやら男が言っている医師は、この女性医師の事だった様だ。
その医師の姿を見るやいなや、男は目を血走らせて医師に向かって突進しようと走り出す。
その瞬間、男の方に向かいながら、機会を伺っていた安室が男の前に立ちはだかった。