第29章 川品中央総合病院
彼と目が合うと『ニコっ』と口角を上げて微笑みを向けられた。
椛(ここ、病院なんですけど…)
安室「これくらい構わないだろ。」ひそひそ
静かな待合室で、言葉を発するのを控えていた彼女だったが、彼女だけに聞こえるぐらいの小さな声で彼は先に言葉を発した。
椛(心読まれた…
エスパー安室ですか…)
確かに、待合室には2人の事を気にしている様な人達は周りにいない。
繋がれた右手から伝わる彼の体温が、とても心地よい。
振り払うような理由ももちろんないため、そのまま彼に答えるように握られた手を握り返した。
安室は、握り返された事が嬉しかったのか、笑みを更に深めて彼女の事を見つめ返していた。
予約時間まで少しあるため、そのまま暫く待つかと思えば、思いの他直ぐに名前が呼ばれる。
彼女は握っていた手を放し、立ち上がると…
椛「じゃあ、ちょっと待ってて。」
彼にだけ聞こえるように小さく一声かけてから、呼ばれた診察室に向かい、扉に手をかけた。
椛「おはようございます。」
医師「おはようございます。」
ドアをスライドさせて、診察室に足を1歩踏み入れると、先日入院中もお世話になった女性医師と挨拶を交わす。