第29章 川品中央総合病院
そんな運転席とは対照的に、
『カチャリ』と締めたシートベルトが外される音が、助手席から聞こえた。
それと共に伸びてくる彼女の右腕。
そのまま安室の首筋に手を添わせる。
そして朝の光に反射する、彼のライトブルーの瞳をジッと見つめると…
椛「じゃあもう一回して?」
今時刻は朝の9時。
外は快晴の青空に、外程ではないものの、明るい車内。
上目遣いで彼に問いかけるその彼女の姿は、明るい車内といえど、安室の目には酷く妖艶に映った。
安室(本当にもう…
これは…
先が思いやられるな…)
彼女の言葉に思わず苦笑するが、その表情は至極幸せそうに見える。
シートベルトを締めようとかけていた手を外すと、安室も彼女の首の後ろに手を回す。
安室「仰せのままに…お姫様。」
彼は嬉しそうに目を細めると、今度は先ほどよりも深い口付けを、彼女に捧げた。
予約時刻より、少し早めに2人は病院に着くと、受付を済ませて待合室の椅子に二人並んで腰を下ろす。
腰を下ろして落ち着くと、彼女の膝の上に乗っている手に、当たり前のように手を伸ばし、自身より小さな手を握る安室。
その彼の行動に、待合室の受付番号画面に視線を向けいていた彼女の目が、彼に移動する。