第29章 川品中央総合病院
その彼の声に気づき…
椛「?? 安室さん?
どうかしまし…」
途中で途切れる彼女の声。
安室は、体を大きく助手席側に捻ると、
そのまま彼女の唇に自身の唇を重ねた。
『チュッ』と軽くリップ音と共に唇が離れると、満足そうに微笑む彼の表情が目の前に見えた。
安室「おはようのキスがまだだったので。」
椛は先ほどの照れが下がり切ってない状態も相まって、顔に少し熱が集まる事を感じる。
椛「ここ、外だよ…。」
少し困り顔で、照れたように言う彼女。
安室「外だけど、車内だ。」
椛「車内だけど、外だし、明るいよ!」
安室「明るいけど、誰も歩いてないさっ♪」
『ああ言えばこう言う』とはまさにこの事だろう。
そう言って『ほら』とでも言う様に、身振り手振りを踏まえて、大げさに辺りを見渡してみせる安室。
まるで
『自分は間違ったことは何もしてないぞ♪』
とでも言いたげな少年の様な彼の姿に、
『何を言っても無駄だな。』とは思うが…
会話のロジックを楽しむような彼の様子を目の前にすると、表情が緩む。
椛「ふふふっ♪
分かった分かった。そうね。」
彼女の言葉に納得したのか、安室は満足そうに微笑むと、車を出すため、先ほど一度締めようと手にかけたシートベルトに再度手を伸ばす。