第27章 ゼロの恋人
椛「おかえり、零。」
降谷「椛…
ただいま。」
お互いに挨拶の言葉を交わすと、傷に触らないように気を配りながら、ギュッと強く抱きしめた。
数日ぶりに感じるお互いの温もりを確かめ合うと、心が酷く満たされる。
降谷(…人は30秒ハグをすると、その日のストレスが1/3軽減されると言うが…
椛とのハグは、今あるストレスが全部、消え失せる気がするな…)
暫く抱擁を満喫していたが、彼女の腕が先に解けて、彼の手を取ると、一度微笑みを向けてリビングに向かおうと、足を踏み出した。
降谷「椛、待って。」
椛「?
どうしたの?」
彼の声に、リビングに向かおうと踏み出した足を止めて振り返ると、降谷に目線を向ける。
すると腕を引かれて、そのまま腰に手を回され、抱き寄せられると2人は向かい合う。
再び近くなったお互いの距離。
『何だろう?』と、
彼の瞳をじっと見つめて返事を待つと…
降谷「…ただいまのキスがまだなんですけど。」
椛(えっ!?)
まるでちょっと拗ねたように、唇を少し尖らせて言葉を発した彼のその姿は、カッコ良くもあり、可愛くもあり…
彼女の心をかき乱すには、十分すぎる威力だった。