第20章 緋色のカレーライス
残りが少なくなった彼女のカップに、ポットから新しいローズティーを注ぎ入れる。
新しく注がれたローズティーを、素直に口に含む彼女。
心地よい香りと、その味を感じると心がホッとする。
椛「前にディナーの帰りに、車ですれ違った時は、
『あの2人にはあまり容易には近づかないでください』
って言ってたのに、止めたりはしないのね。」
秀一「人には時に、コントロールしきれない感情もあるだろう。」
秀一の言葉が、彼女の心に重く突き刺さる。
完全に『経験者は語る』感が出ていたそのセリフに、思った事を素直に聞いてみた。
椛「…秀一は無いの?そーゆーの。
女の気配は全く今のところしてないけど…。」
秀一「あぁ、そうだな。
俺はもうその類は暫くはいい。
…それに、今の俺はこんな状況だしな。」
おそらく本来の自分を隠して、日々変装して生きている事を言っているのだろう。
彼が本来の自分の姿で生活できるようになるまで、あとどれぐらいかかるのだろうか。
椛「そっか…。
やっぱり、毎日沖矢昴でいるのは大変なの?」
赤井「いや、そんな事もないさ。
慣れると、これはこれで色々都合が良いし、楽しいもんだな。」
椛「そうなんだ…
けど、まぁ、1日でも早くもっと色々、自由に生活出来るようになるといいね。」
赤井「それもそうだが…
この生活にならなければ、料理を覚えようとも思わなかったし、椛と知り合ったとしても、講座の依頼をする事は無かっただろう。
これはこれで結果オーライだ。」
そう言って話す彼の姿は、思いの外晴れやかに見えた。