第19章 東都ビックサイト
再び名前を呼ばれて、何かを言いかけた瞬間…
彼の胸ポケットからはバイブ音。
その電子的なバイブ音に、先程まで気にならなかった周りの騒音が、一気に耳に戻ってきて、現実に弾き戻される。
椛「…スマホ、電話じゃないですか?」
安室は鳴り続けるスマホに手を伸ばして、液晶を見ると通知相手を確認する。
椛「…どうぞ、出てください。」
彼女からそ言うと、
安室「ちょっとすみません…。」
腕を解き電話に出ると、そのまま数歩歩き、少し離れた所でそのまま通話をし始めた。
先程まで感じていた体温が一瞬で離れて、軽く虚無感を覚えた。
彼が誰と何を話しているかは聞こえないし、分からないが、このタイミングと、そして彼の様子を見る限り…
椛(きっと風見さんだろうな…
会った事はないけど…)
そう思いながら、彼女は周りの様子を改めて見回す。
1分も経たないうちに電話は終わり、こちらに向き直る安室。
その表情は酷く、申し訳なさそうな顔をしていた。
椛「急用ですかね?
どうぞ行ってください。
私は大丈夫ですから。」
彼女の言葉を聞くと、後ろ髪を引かれる思いなのか、眉間に皺を寄せて困った顔をしていた。