第19章 東都ビックサイト
安室(もの分かりが良すぎるのも、時には考え物だな…。)
安室「…送っていけなくてすみません。」
椛「いえ、大丈夫ですよ。
お気になさらず。
どうぞ行ってください。」
そう言って笑顔を向ける彼女。
その笑顔を見ると、ひどく胸が締め付けられる感覚がした。
安室「…。」
椛「本当、大丈夫ですから。
急ぐのですよね?」
安室「はい…ありがとうございます。
では…また。」
椛「えぇ、気をつけて行ってきてください。」
彼に向けて軽く手を振る彼女。
その彼女に軽く微笑みを向けると、身体を返し自身の愛車が止めてある駐車場に足を向ける。
彼女も帰るために駅に向けて歩き始めるが…
安室「椛さん!!」
去った筈の彼の声が後ろから聞こえ、振り向くと、彼女の元に駆けて戻ってくる彼の姿。
そして再度、力強く抱きしめられる。
彼女は、再び抱きしめてきた彼の背中に腕をまわして、彼の抱擁に答えた。
安室「椛さん…
落ち着いたら今日中に必ず連絡します…」
まるで何か張り詰めた様な声色の彼の言葉に、一瞬でどうしたら良いものかと考えるが…
椛「分かりました。待ってますね。」
そう言って背の高い彼の頭に手を伸ばして、髪をすくように何度か撫ぜた。
すると今度こそ身体を離して、急いで駆けていく彼を見送った。