第19章 東都ビックサイト
立ち尽くしたまま何も言わず、そして動かなくなってしまった彼の事が、流石に心配になってくる彼女。
芯が強いライトブルーの瞳が、まるで何かと葛藤しているように見えて、声をかける。
椛「安室さん?」
彼女に名前を呼ばれた次の瞬間…
安室(あぁ…
もうこれ以上は無理だ…)
安室の中で、何かタカが外れた様に、掴んでいた手を引き寄せて、腕に閉じ込め、強く彼女を抱きしめる。
彼女は急に抱き寄せられてよろめくが、しっかりと抱き留める彼の逞しい身体。
何も言わずに強く抱きしめてくる彼に、そのまま素直に身を預ける彼女。
ゼロ距離になった彼の胸からは、力強く脈打つ鼓動がよく聞こえた。
椛(あぁ…
なんか不思議…
ドキドキとかよりも…
何故か、すごい落ち着く…
このまま、抱きしめ返しても良いかな…?)
抱きしめられた反動で、体に挟まった状態の腕をモゾモゾと動かして、そのまま彼の背中に腕を回す。
普段はほのかに香っていた彼の香りが、ダイレクトに脳に響く。
椛(やっぱり、これは安室さんの香りだったのか…
安室さん凄い良い匂い…)
目を閉じて五感に神経を集中させる。
周りの喧騒が気にならないぐらい、彼の鼓動の音と、彼の香りと、そして布越しに感じる彼の体温に包まれる。
与えられる安心感に、酷く心地よさを感じていた。
そして先程から何も言葉を発しなくなってしまった彼をあやす様に、背中を優しく撫ぜた。