第17章 喫茶ポアロの新メニュー
ドアノブにかけていた左手を外し、身体の向きを変えて、代わりに彼の髪にゆっくりと手を伸ばす。
椛「安室さん、髪…
本当綺麗ね…。」
自身とは異なる色とハリを持つ、その美しい髪の感触を、堪能し始める彼女。
安室(一体どうゆう状況だこれは…)
どうもまだ行ってほしくなくて、思わず引き留めてしまったが…
気付くと目の前には穏やかな表情を向けながら、自身の髪を解いている彼女の姿。
髪の毛に神経は通っていない筈なのに、彼女に触れられてる箇所が、とても心地よい。
やめて欲しくなくて、暫くそのままされるがままにしていると、解いていた髪から指を抜き、今度は頭を撫ぜられる。
頭を撫ぜられるなんて、いつぶりだろう。
とても心地く、酷く安心する。
数回往復すると彼女は満足したのか、手が離れていき、掴んでいた右手に重ねられる。
椛「じゃあ、そろそろ行きますね。」
彼女のその言葉を聞いて、ハッと我に返る。
安室「はい…ではまた。」
椛「ではまた。」
髪や頭を撫ぜられていた事で、力が抜けていたのか、先程まであんなに強く握っていた筈なのに、スッと彼女の手が自身の手から抜けて離れていく。
そのまま彼女は車を降りて、こちらに向けて手を振っていた。
その姿を確認すると、安室も手を挙げて返事を返す。
こちらが発進しないと、彼女は家に入らないだろうと思い、アクセルを踏み込んだ。
サイドミラーを確認すると、建屋に入っていく彼女の姿が見えた。
安室(俺は…とんだ腑抜けになってしまったな…。)