第16章 ゼロの銃弾
椛「大丈夫だから。
聞かせて…。」
赤井「…その時、階段を駆け上がってくる足音がして…
組織からの追手だと思い、逃げ切ることはできないと悟って、自ら引き金を引いたんだ。
自身の左胸を。
その時、左胸のポケットに入っていたスマホもろともな。」
彼女が軽く息を吸う音がしたが、そのままの状態で動かない。
椛「…その階段を上がってきた人は、結局追手だったの?」
赤井「抹殺命令を組織から耳にしたバーボンだ。
急いで駆けつけたのだろう。」
椛「じゃあ、その足音を聞いて引き金を引いたって事…?」
そう言った彼女の声は、僅かに震えているように感じた。
その問いに、赤井は答えない。
暫しの沈黙の後、
赤井「…彼の事は…
今でも、悪かったと思っている…。」
椛「…っっ…。」
彼女の方に目を向けると、目からとめどなく大粒の涙を流していた。
今まで耐えていたものが、一気に溢れて出たのだろう。
赤井はゆっくりとした動作で、ソファの隣に座る彼女を優しく抱きしめた。
抱きしめられた腕の中で、
椛(そういえば、前よりも、タバコの匂いあまりしなくなったな…)
なんて、こんな時でも全然別の事が頭に一瞬浮かぶ。
おそらくあれから彼女が言った通り、匂いに気を使う様になったのだろう。