第16章 ゼロの銃弾
『こんな偶然あるか』
と本当に何度も何度も思ったが…
あの日からずっと今日まで、彼と関わってきて、同じ時間を過ごせば過ごすほど、
『安室透』もとい『降谷零』があの時、ヒロ君から聞いていた『ゼロ君』の人物像とどんどん重なる。
日に日に
『やはり彼がゼロ君なんだ』
と確信に近付いていった。
会ったことは無いけど、爆弾解体の技術はきっと松田君から。
ギターと料理はヒロ君から。
ヒロ君も『ふるさと』が大好きだった。
それに先日のドライビングテクニック。
きっと萩原君から教えてもらったものだろう。
いつか、きっとそんなに遠く無い未来。
『公安の協力者』だと打ち明けられる日が来たら、その時、本人に直接聞こうと思っていた。
ヒロ君はどうしているのか?
元気にしているのか?
まさか打ち明けるより先に、ヒロ君のお兄さんに会える事があるなんて…。
別に、昔の恋を引きずっているわけでは無い。
もし再会しても、今更どうこうしようとは思っていない。
もちろん嫌いとかは無いし、今では良い思い出だけど…
言葉にする事は難しいが…
なんだかずっと…
『胸騒ぎ』がとにかく取れなかったのだ。
先日の諸伏警部の話。
そして先程の黒田さんの話。
ヒロ君は既に亡くなっていたのか…
胸騒ぎの原因はこれか…?
諸伏警部は、その事を知っていたのだろうか?
まぁ知っていたとしても、あの場では言う事は出来なかっただろうし、私は身内でもなんでも無いし、ひっそりと伝える義理もないだろう。
こんな時でも、こんな時だからなのか…
頭の中はスッと酷く冷静な自分を、少し恨めしく思う。