第16章 ゼロの銃弾
ポアロに初入店し、カウンター席に座ると、キッチンの中で作業する彼の姿がよく見えた。
紅茶を頂き、パソコン作業をしながら、彼の様子を覗き見る。
テーブル席に座る他のお客さんから新たに注文が入り、その注文の品を作っている姿を続けて見る。
どうやら、ハムサンドを作っている様だった。
そして、そのハムサンドの作り方を見た時は、酷く驚いた事を今でもよく覚えている。
店舗用に、かなりコストを抑えて作っている事は容易に予想できたが、問題はそのベースの作り方。
私がヒロ君に教えたものだった。
その日の夜、毛利家で食事をご馳走になった帰りの車内で、
『どこで料理を覚えたか』
尋ねると
『友人から教えてもらったあと独学』
と言っていた。
潜入捜査官だし、その為の嘘かもしれないし、真実かどうかは現時点では判断できない。
サンドイッチの作り方だけで、彼が『ゼロ君』だと断定は出来無いし、それに私から本人に直接尋ねる事はできない。
黒田さんには、『ギリギリまで、出来るだけ正体がバレない様に引き伸ばして欲しい』
と頼まれている。
正体がバレる様な行動は、自分からはできない。