第3章 夜のファーストドライブ
椛「ところで…良かったんですか本当に?
私、送ってもらって頂いて。」
安室「えぇ?もちろんですよ。今更どうしたんですか?」
椛「他の女性を助手席に乗せて彼女さん、怒ったりしないんですか??」
安室「あぁ、僕に彼女はいませんよ。」
前を見据えながら運転する彼の横顔を眺める。
夜の暗い横顔からは彼の真意は読み取れない。
椛「…CHANEL No.5」
少しトーンを下げた声で告げる。
安室「えっ?」
椛「…先程車に乗り込む時、車のドアを開けた瞬間にCHANEL No.5の香りがしました。
普段乗せてる女性からの移り香だと思ったのですが…
違ってたみたいですね。
ごめんなさい♪」
安室「…そうでしたか
…それは恐らく先日乗せた知人の物です。
確かに女性だったので、その時に付いたのでしょう。」
そうこうしているうちに、目的の場所までもう目と鼻の先だ。
安室「…椛さんこそ良かったのですか?」
椛「何がですか?」
安室「お送りする場所、最寄駅辺りを指定されるかと思ったのですが。
ご自宅の住所を言われたので少し驚きました。
会って初日の男性に、自宅の場所を教えるなんて…
余程
『僕のことを信用してくれた』
と思われても仕方がない事ですよ。」
少し厳しい口調で言われる。
彼女に動揺は見られない。
少し間が空き、空気がしんと静まる。