第14章 長野のコウメイ警部
椛「安室さん?
どうかされました?」
黙ってしまった事を疑問に思われたのか、心配そうにこちらを見ていた彼女と目が合った。
安室「いえ…
それにしても、諸伏警部の弟さんは椛さんの生徒さんだったんですね。
驚きましたよ。
世間は狭いですね。」
当たり障りのない会話を彼女に返す。
椛「あぁ、そうですね。
本当、世間は狭いですね。」
安室「…その諸伏警部の弟さん、どんな方だったのですか?」
椛(…自分の方がよっぽど、よく知ってるくせに。)
心の中で少し悪態をつくが、表には出さずに会話を続ける。
椛「んん〜…
何でそんな事、聞いてくるんですか?」
安室「特に理由はないですが…
少々気になっただけです。」
そうこうしているうちに、彼女の自宅が見えてくる。
いつも通り、停車し慣れた建屋の前に車を停めた。
椛「昨日今日と2日間、運転ありがとうございました。」
安室「いえ、そんな大した事じゃないですよ。」
暫し沈黙のあと、口を開いたのは彼女の方。
椛「先程の質問の件ですが…」
安室「…はい…?」
椛「諸伏警部の弟さんは、、、
とても優しくて、周りにも気を遣える、良い生徒さんでしたよ。
覚えも早く、手先も器用で、とても優秀でした。」
安室(ヒロ…。)
彼女のその言葉に、安室の脳裏には彼の笑顔が浮かぶ。
安室「そうですか…。」
彼女は、安室の表情を覗き見ると、夜の情景に紛れつつも、何とも言えない切ない表情をしていた。