第9章 芝浜離宮恩賜庭園
椛「投げるのにちょうど良い大きさだったので。」
安室の呟きは、彼女に届いていたようだ。
草履を拾うと戻ってきて彼女の足元にしゃがみ込む。
草履についてしまった土ぼこりを軽く手で払い、彼女の足元に差し出す。
安室「全く…
草履を犯人の顔に投げつける人を、初めて見ましたよ。」
彼はしゃがみ込んでいる為、こちらからはハッキリ表情が確認できないが、上から見ていても若干あきれ顔に見えた。
椛「だから〜、投げるのに丁度良い大きさだったから。」
先程と同じ説明を繰り返しながら、安室の肩に手を乗せて、御礼を言いつつ、差し出された草履に素直に足を通す。
すると、バックを取られたであろう被害者達が追いついてきて、こちらに向かってくる姿が視界の先に映る。
遠くからパトカーのサイレンも聞こえてきた。
被害者達に取り返した鞄をそれぞれ渡して、中身が大丈夫か確認してもらう。
被害者達は頭を下げて、何度も安室にお礼を言っていた。
その光景を隣で見ている彼女は
椛(本当にヒーローっぽいな…
まぁ、実際ヒーローなのか。)
と思いながら微笑ましい気持ちでその様子を眺める。
到着した警察に事情を説明して、未だ気絶している犯人を差し出す。
特に無くなったり、壊れたものも無かった為、そのまま各々軽く事情聴取と記帳をして、その場は解散となった。