第42章 ポアロのギタリスト
最後に耳元で囁かれると、キツく回されていた腕がスルリと抜けて、椛の体から離れていく。
ホッと力が抜ける感覚と同時に、少し寂しさを覚える。
彼の腕の感覚がまだ残っているのに、距離を取ることで逆に心が疼く。
降谷はそのままキッチンを出ると、ソファにゆっくり座り、姿勢を整える。
スマホを手に取り何やら打ち始めた彼の姿を椛は、オープンキッチン越しに眺めていた。
キッチンでの作業に集中しようとするが、ソファに座る彼の後ろ姿を眺めていると…
先程まで背後にいた降谷の温もりがまだ、背中に残っているような感覚がする。
胸の奥で未だ小さくくすぶる熱が…
先程まで起きてた現実だと、否が応でも知らしめる。
息を整え心を落ち着けるが、耳の端に微かに残る降谷の声や匂いが思い出され…
熱を帯びた頬が直ぐに、引くことは無かった。
リビングのソファでは、降谷がゆったりと座り、スマホを打ち、ただ静かに椛の作業が終わるのを待っている。
椛(引く時は本当、サッと引く時あるよな…)
椛はそんな事を思うが…
降谷は降谷で、椛の仕事を尊重しているので、自分の存在が、彼女の仕事の負担になる事はできるだけ、避けたいと思っている。
そんな気遣いが彼らしいとも言える。