第40章 立夏の約束事
そう言って安室が手を伸ばしたのは、椛が最初に目をつけた、子千谷縮の本麻の反物だった。
椛「いやぁ〜…
それ本当に素敵でしたよね♪
安室さん…
仕立てたら着たいですか?」
安室「椛さんが、隣で一緒に浴衣を着て歩いてくれるならもちろん♪
…着付けを勉強しなきゃですね。」
鈴木「ご主人の着付けなら、結城様がしてくれますよ!
きっと♪」
すかさず横から鈴木がフォローを入れる。
そんな和やかなやりとりを後ろから見て、石垣は柔らかく微笑んでいた。
椛「石垣さん、そしたらそれ頂きます。
夏着物で。
彼の採寸お願いします。」
石垣「かしこまりました。」
椛「そしたら、私、その彼の反物に合わせて、この藤色の有松絞りの子にします。」
鈴木「おぉ!!
結城様も決定ですね♪
お二人並んだらきっと素敵ですよ!!」
先程まで散々悩んでいたが、どうやら心が決まった様だ。
椛「鈴木さん、仕立て代も合わせて、全てまとめて私に伝票下さい。」コソッ
周りには聞こえない様、すぐ隣にいた鈴木に小さく耳打ちをするが…
その様子に、言葉は聞き取れなくとも、鏡の前で石垣に採寸をされている安室は何かを察した様で…
安室「鈴木さん、お支払いは全て僕に下さい。」
採寸中のため身動きが取れないが、鈴木を引き留めるように声をかける。