第39章 嘘つきと正義
キスの終わりを感じ、彼が顔を離そうとした瞬間、空いていた左手を伸ばして彼の服を掴む。
『まだ離れていかないで…』
とでも言うように、掴んだまま引き寄せると、彼女の心情を汲み取ったのか、今度は角度をつけて先ほどよりも熱く、深い口付けが落ちてくる。
椛「んっ…
ふぅ…」
狭い車内で引き寄せられて無理な体制に、思わず彼女の息が漏れる。
服を掴んでいた手を離し、彼の体に沿わせると首筋に辿り着く。
彼の首筋に手を回して抱きつくと、しっかりと抱きしめ返してくれる。
そんな些細な仕草が、更にお互いの胸を熱くさせた。
暫くして重なっていた唇が離れると、2人の間に銀の糸が伝う。
日が大分傾き、夕焼けで照らされていた車内も黄昏時に色を染め始めていた。
安室「椛…
本当に凄く…
会いたかったんだ…」
椛「うん…
私も会いたかったよ….」
安室「ポアロで椛の姿を見た時も、本当は直ぐにでも抱きしめたかった…」
椛「零…」
彼の頬に手を添える。
安心したような、それでいて嬉しそうに柔らかく微笑んではいるが…
至近距離で見ると余計に、彼の表情はやはり、疲れが隠しきれていない様子が見て取れた。
頬も、ポアロで見た目ではあまり分からなかったが、直接触れると、いつもより皮膚が乾燥してカサついているように感じる。
椛(この人は本当にもう…
まぁ、昨日の今日だもんな…)