第39章 嘘つきと正義
どれだけ早く動いたのだろうか。
つい先ほどまでカウンターの中にいたはずなのに、気づいたら椛の直ぐ隣に安室がいた。
そして、溢したテーブル席をササっと片付けていく。
椛(流石公安…
徹夜明けでも動きが俊敏すぎる…)
中年男性「す、すみません…
自分は大丈夫ですから…」
安室「椛さんも、ありがとうございます。
後は僕がやりますから。
席に戻ってて下さい。」
俯きながら詫びを入れる男性は、カウンター席に戻る椛の姿をチラリと目で追っていた。
そしてその顔は、気持ち赤らんで見えた。
そんな男性の様子を、安室は見過ごす事はもちろんなく…
そしてその男性の心情を敏感に感じ取るのは、やはり同性のサガか…
安室(椛の言葉に、動揺したのか…
本当…
油断も隙もない…
困った女性だ…)
そんなに広くも無い店内。
BGMや他の客達の会話があったとしても、先程の彼女の言葉は、近くに座っている他の店内にいる者達の耳にも入っただろう。
自分に向けられていた賞賛の言葉だったとしても、他の男の耳に入るの事が気に入らなかったのか…
それとも彼女の言葉に、他の男が反応してしまった事が許せないのか…
心の中に何か、ドロッとした感情が流れ込むことを感じた。
安室(俺もいよいよ大概だな…)
そんな自分の感情に、思わず顔を俯けて苦笑してしまう。