第1章 SOTA
彼の家までの帰りは、チームメンバーのジュノン君の車に乗せてもらう。
ジュノン君とは、ソウタと一緒に何度も食事したりして、気心が知れている。
3人でコンサートの興奮そのままに盛り上がって帰路についた。
こうやってたら普通の男の子たちなんだけどなぁ。
「どした?」
ふいに訪れた沈黙の瞬間、ソウタにマジマジと見つめられる。
「いや、何?なんもないよ」
「不安そうな顔してる」
顔に出てたかな。いかんいかん。世界に羽ばたく彼の余計な重荷だけにはなりたくない。
わざとふざけて力強い表情で誤魔化す。
それなのにソウタは真剣な顔で私を抱き寄せた。
「ちょっと、ジュノン君みてるよ」
「J見てないよな?」
「見てないよー」
バックミラー越しに運転席のジュノン君をみると、一瞬ニカッとした後で目を逸らして、無言で親指をたてている。
「俺はどこにもいかねーよ。戻ってくる場所にお前がいなきゃ、世界に飛び出していけねぇっつーの」
ソウタに耳打ちされて、不覚にも涙があふれる。
「泣くなよ」
涙を拭われるが、いろんな感情がグチャグチャでいっこうに止まらない。
涙で濡れたソウタの指が、優しく私の唇に触れる。
羞恥心が邪魔して戸惑っているのに気づいたのか、ソウタは被っていたキャップを脱いで運転席の方に手を伸ばす。
バックミラーが視界から完全に隠れた。
「あらら、お客様困りますー」
笑みを含んだジュノン君のセリフを完全に無視して、ソウタは私に口づけた。
幸せな涙の味がした。