第3章 MANATO
私は怒っていた。
マナトは約束の時間に1時間も遅れてやってきて、しかも今日が何の日か完全に忘れている。
「ごめんって。悪かったって」
遅れたのは仕事が押したからだし、必死に手を合わせて謝る姿に少しずつ怒りも和らいできているのも事実。
まぁ、仕事が忙しいし、こっちもそんなにアピールしなかったし、私の誕生日なんて忘れてもしょうがないか。
ちょっと自暴自棄半分な諦めのため息。
「じゃあ、これやって」
私が差し出したのはアコースティックギター。
「え、弾けば許してくれるの?」
「ただ弾くだけじゃないよ、弾き語りだよ」
私はちょっと意地悪に無茶振り。無理難題を突きつけられた時の彼のアドリブはいつも面白い。
「えーっと、そうだなぁ。プラスチックラブ弾き語ってもらおうかな〜。竹内まりあのやつ」
私が好きな曲。2人で聴いたこともあるから知ってるはず。
「マジか…」
マナトは苦笑いした後で、大げさに空咳をして何やらキャラ作り。「では参る」と渋めの声で唸る。
ギターを抱え、必要以上に大きく右手を振りかぶって、
そして…
極上の歌声で完璧にプラスチックラブを弾き語り始めた。
(え…?)
ツッコむ隙のない、もう本当に、ただただ美しい音色に、私は完全にノックアウトされた。
時を忘れて聴き惚れてしまう。
歌い終わっても、私はまだぼんやりしていた。
まるで魔法にかけられたようだった。
マナトはそんな私を見て口元をゆるめ、ギターを置いて上着のポケットから何かを取り出した。
それは、リボンのかかったプレゼントたった。
「誕生日おめでとう」
次々繰り出される魔法に感動して私は言葉も出ない。
マナトはプレゼントごと私を抱きしめて頭を優しく撫でてくれる。
「サプライズ成功した?」
コクコクと頷くと、満足したように笑みを浮かべる。
綺麗な瞳で近距離から見つめられるとドキドキする。
胸が押しつぶされそうなほどに感情が溢れてくる。
今夜もまた私は、苦しいほどにマナトの色に染められていく。