第5章 一周回って
翌朝。
このゲーム世界はリアルタイムで時間が進むから、多分現実世界も朝なんだと思う。まぁそんなことは今は置いておいて……。
「うぅっ……」
目覚めて早々うめき声をあげる私は……そう。一睡も出来ませんでした。
だってさ? 隣にイケメンだよ? 最推しだよ? どうやって寝られる訳? 寝顔見逃せないし見ただけじゃ満足しないしでも寝たら自制が効かなくなりそうだし?!
そんなふうに延々と葛藤していたら眠れませんでした……なむ、私の睡眠……。
「おはよう、ユメ。よく眠れたかい?」
そんな私の葛藤なんて全く知らないだろうカシタローさんが、今日も朝から尊い笑顔で挨拶をしてきた。ああ、眩しい。私、今日しんでも後悔なんてないや。
「おはよう……ちょっと寝れたかな」
心配はかけたくないけど嘘もつきたくないと、私が曖昧な返事をすると、カシタローさんは笑顔を崩してすぐに真剣な顔になった。
「そっか……ユメは今記憶喪失だから、不安なことも多いよね」とカシタローさんは言う。「今日は学校休もうか? 先生に伝えて置くよ」
そうしようかな、と言いかけてハッとする。ちょっと待て。ということは私はお留守番? こんなイケメン最推しがそばにいるのに? 一緒に登校するチャンスを逃していいとでも?
「ううん、一緒に行く!」私は全力で首を振った。「だ、だってほら、早く記憶を取り戻したいし! 学校行ったら、何か思い出すかも!」
するとカシタローさんは、優しく笑って。
「ユメがそう言うなら、一緒に行こう」
イケメンの笑顔は、一周回って毒だ。