第16章 ライブ会場
行ってみると、そこには多くの人が集まっていた。この人たちも、キセカエンの世界に入って来てしまった人たちなのだろうか。こんなにいたとは、驚きだった。
そして、前方には屋外ライブ会場みたいなステージがあり、不覚にも歌詞太郎さんのことを思い出してしまった。あ、またライブに見に行きたいな。ライブチケット、予約していたんだっけ。
急に現実のアレコレを思い出してきて、私はこんなにも当たり前だったことを忘れていたのかと自分にすら驚いた。私、もう少しここにいたら、現実のこともすっかり忘れていたのかもしれない。
「どうやら人は集まったようだねェ!」
ステージの上で爆音声で喋るのは、あのタバコを咥えていた屋台の男性だった。屋台で見た時はクールそうに見えたのに、マイクを持つとあんなにも性格が変わるタイプなのだろうか。
「それじゃあ、現実世界に戻りたいみんなにィ! 帰り道のゲートを開くぜェい!」ブリッジが出来るほど体を逸らしながら、男性は爆音を発し続けた。「みんな、じっとしているんだぜェい! カウントダウン始めるからなァ!」
緊張してきた。拳を握る。私、このまま本当に帰れるのかな。
私は、カウントダウンを待った。
「スリー! ツー! ワーン!!」
男性が言い終わるか終わらない内に、頭上が強く光り出した。私は眩しくてぎゅっと目を閉じた。周りでは本当に大丈夫なのかと騒ぎ出す声も聞こえる。私はひたすらにじっとした。いつじっとしていたらいいか、分からないまま──。