第14章 意思
「そうですか……」
カシタローさんから笑顔は消えたが、それは怒りや悲しみの表情ではなく、真剣そのものだったと思う。
「ごめんなさい、いきなりこんなことを言って」
もっと早めに言うチャンスはあったかも。だけど悩んでしまって。このタイミングで告げることとなってしまった。
「ユメさん」
そうカシタローさんが呼ぶと、私の隣にやって来て片膝をついた。何これ、こんな仕様だったなんて聞いていない。イケメンがこっちに向かって膝をつくことなんて、一生ないかも。
「貴方に出会えて過ごした時間は、とても幸せでした。良ければ、最後にお手をよろしいでしょうか」
「へ……」
それってどういう意味なのか。床に座っている私に手を差し伸べているから分からない状況なのか。でも、このまま私が立ったら……そういうアレと同じになるんじゃ……。
私は少し悩んだ。手を繋いで歩くことを拒んだのは他でもない、私だ。それをカシタローさんは一度も否定してはこなかった。だけど本当は、アバターの心が本当にあるんだとしたら。
私は、立ち上がった。
「こ、こんな私で、良ければ……」
噛んじゃったよ、大事なところで。でも緊張しちゃって。
「ありがとうございます」
しかしカシタローさんは膝をついたまま、私の手を取って……手の甲に口づけを落とした。それって普通は忠誠を誓う仕草なんだけど、今はそんなことは重要じゃない。これがカシタローさんのお別れの挨拶なのだ。私は受け入れるだけだ。いつも、カシタローさんがしてくれたように。
数秒のことだった。時が止まったような瞬間だった。
カシタローさんは立ち上がり、ニコリと微笑んだ。やっぱり、カシタローさんだ。アバターとか、NPCとかではなくて。
柔らかい温もりが名残惜しくて私はつい手の甲を自分の唇に寄せた。か、間接キスくらい、い、いいよね……?
それから私は、握っていたものをカシタローさんに差し出した。