第12章 決意
翌朝が来た。私は、ソファで目が覚めた。
カシタローさんと添い寝が出来るこの仕様から、サヨナラをするための私の決断からだった。
カシタローさんは、少し寂しそうな顔をした気もしたけれど、最終的には私がソファで寝ることを許してくれた。アバターにも感情があるのだろうか。現実世界の人間である私には、分からない。
今日は学校が休みの日だ。カシタローさんに断りを入れて、私は引っ越しイベントエリアである屋台ロードへ一人で向かった。
今こうして見ると、周りはどれも機械的だった。同じスピードで同じルートしか走らない車、同じ文句と動作しかない屋台のアバターたち、ずっと晴れの世界。どうして今まで、この変わらない世界に違和感を持たなかったのか、不思議なくらいだ。
「あの、すみません」
声を掛けたのは、あの屋台だ。
キセカエンの中に入ってしまった現実世界の貴方へ
と書かれた屋台。
その屋台にはやはり誰もアバターらしき人物はいなかったが、私がそう声を掛けると、なんと屋台の後ろから、人が現れたのだ。
口にタバコを咥え、深く帽子を被った金髪の男性。そんなファッションはこのゲームの中には存在しなかったはずだ。私は直感した。この人は、アバターではない。現実世界の人間だ。
「一目見た時からそう思っていたぜ。……アンタも、こっち側の人間だろ?」
口に咥えたタバコを落とさずに男性はそう聞いた。私は警戒していて、すぐには頷かなかった。
「これを」
けれども男性は私の態度に何か言うこともなく、一枚のチラシを渡してきた。チラシには地図が描かれていた。地図が示す場所には、現実世界に戻る方法があると赤い文字が走っていた。
「行くかどうかは本人に任せてるんだ。俺みたいに、この世界に留まった奴らもいるし。けど、この出口は、俺がいる間しか開いてやれねー。つまり、この引っ越しイベントまでってことだ」
「……分かりました」
私はチラシから目を離せないまま頷いた。それはつまり、二度とここには戻れないと言われているようなものだった。そして現実世界に戻るチャンスは、あと五日の間だけ。
また同じ屋台の人が来るかどうかは分からないし、もう二度と会えない人かもしれないと考えると、チャンスは一度きりと思っても良さそうだ。
私は、深呼吸をした。
カシタローさんに伝えよう。
私は自宅へ向かった。