第10章 イベント
身支度を整えて自宅を出ると、街の中は賑わっていた。……そうか、外が妙に騒がしかったのはこれだったのか。
お引っ越しイベントが来たのだ。
お引っ越しイベントといっても、いきなり知らない人の知らない家が建っているのではなく、道路にズラリと屋台が並ぶのだ。屋台には三種類程、ガチャで余ったものをプレイヤーたちの任意で出されていて、お手軽にアイテムが交換出来るイベントだった。
この交換のおかけで、昔のガチャでしか手に入らなかった狐面をゲットしたのはつい最近のこと。
だがゲームの中にいる今の私には、交換出来るものはない。まさかカシタローさんからもらった石で出たあのドレスと交換は絶対無理。私たちは屋台のアイテムを眺めるだけ眺め、学校へ向かっていた時だった。
キセカエンの中に入ってしまった現実世界の貴方へ
ドキリとした。なんという名前の屋台なんだ、と思ったが、私の足はまるで根が生えたかのように動けなかった。
屋台の中にはプレイヤーのアバターらしき人物はいなかった。その異様さにますます目が惹かれてしまう。
「ユメ、どうしたんだい?」
カシタローさんに声を掛けられ、私はハッとした。それから首を振り、なんでもないと歩き出した。
カシタローさんは気にする様子なく、いつものようににこやかだった。そうなのだ。画面越しでも、アバターたちはプレイヤーに怒ったことはない。アバター同士でもケンカをする仕様でもなかったのだし、カシタローさんの反応が優しいのが当たり前だと思うと、なんだか悲しくなる。
怒って欲しいとか、そういう訳じゃないんだけど。
それから私たちは、いつも通りの日常みたいに学校生活を送った。ただ私だけは、あの不思議な屋台が頭から離れずずっとモヤモヤしていた。世界に置いてけぼりにされたような感覚って、今の私のことだ、きっと。