第3章 聖女の力
心臓が壊れるかと思った…。
阿部ちゃんの30分間、手繋ぎ耐久を何とか乗り越え、私は逃げるように図書室をでた。
図書室では阿部ちゃんに高確率で出会える。
そんなこと言っちゃうとまるで乙女ゲームの主要キャラみたいだけど、私も図書室に通い詰めだからしょうがない。
本当は図書室以外でも、この世界の情報を調べたい。
みんなが町へ行ったときのお金は阿部ちゃんが支度金として受け取り、町で価値を確認したらしい。
お金の管理は阿部ちゃん。
この世界のお金の価値を把握しているのも阿部ちゃん。
物価も調べ中の阿部ちゃん。
阿部ちゃんがいなければSnow Manの異世界生活は成り立たないかもしれない。
あ、私もだ。
町へいけない私に服まで買ってきてくれたのだ!マジ感動モノ。
私の場合、お城の人達に行動を制限されている。以前、外に出ようとしたら門番に止められた。
そのあと、何があるかわからないからと、Snow Manの皆にも止められた。
お城の中でなら、どこへ行っても一人だけど、部屋や食堂、図書室以外はどこかしらから視線を感じる。
まだついてこないだけましだけど……気分のイイものはない。
「聖女様」
突然、話しかけられ、ギョッと振り返ると異世界に最初に降りた時にいた白ヒゲモジャモジャのおジイさんが立っていた。
王様の挨拶のときもいた。わりとエラい人なのかもしれない。
異世界の人たちは私を名前で呼ばない。
この人の名前なんだっけ?
あ、聞いてない気がする。
「あーえっと……」
「ミドヴェルドと申します」
「ミド…いや、はい。何か?」
「聖女様はどちらへ?」
「…中庭へ行こうかと」
「ご一緒してもよろしいでしょうか」
「……」
なんで?普通にイヤ。
「特に用がなければ、一人で行きたいんですけど…」
「少しお話をさせていただきたく存じます」
「ここでじゃダメですか?それか勇者の皆さんといるときにお願いします」
はっきりと断れない自分の性格が嫌だ。
私は実際一人じゃ何もできない。
魔法で拘束されようが、攻撃されようがあっと言う間に死んでしまう気がする。
いくらおジイさんであっても、異世界人と二人きりになりたくないのだ。
「葵ちゃん」
その声にドキリと心臓が鳴った。