第5章 好感度の距離
「あの、ありがとう。
でも、めめ。この世界でしかみたことない生き物は生態もわからないし、その虫は早く逃がしたほうが……」
「あ、指切れちゃった」
「わーっ!!」
切れちゃった。じゃなーいっ!!!
めめの左人差し指を見ると指先からタラタラと赤い血が流れ、手首まで伝っていた。
慌てて私は虫を掴んで放り投げ、めめの指を掴み、心臓より高く持ち上げた。
「痛いよ、葵ちゃん」
「痛いに決まってますーっ!あああああっ!めめの指がぁっ!」
「そうじゃなくて。いや、大丈夫だって…」
全然大丈夫じゃない!!慌てふためく私に苦笑いしているが、めめの細長く綺麗な指は真っ赤に染まっている。
どうしようどうしよう…!病院?異世界人呼ぶ?!ヒーラーの話、昨日ちゃんと詳しく聞いておけばよかった。急募ヒーラーッ!めめの美しい指がああああ!
虫なんて私が代わりに持てばよかったのだ。めめが怪我するなんて無理っ!誰か治してっ!お願い神様っ!!!
「虫、葵ちゃんにぶん投げられて元気に飛んでったね。ぶはっ」
「笑ってる場合じゃないですっ!めめ、病院行かないと…あ、医務室?ええと…誰か呼ばないと」
「いや、ちょっと待って。
……治ったかも」
「なわけがっ!!!……え?」
その一言で指を再び見ると、流れていた血は固まり始め、先ほどまで痛々しかった指先は赤く染まっているだけのように見える。
めめは切れた指先を反対の手で擦ると血は薄れ、そこにあったはずの傷口は見当たらない。
「……ないね」
「ないですね…」
お互い手が汚れてしまったのは確かなので庭園で手を洗う場所を探した。水やり用の手押しポンプを見つけ、手を洗い終わると再びめめの指を確認してみる。やはりそこには怪我をした痕などはどこにもなかった。
祈りが通じた…?
「凄いね、葵ちゃん」
「え?」
「聖女様でヒーラーだ」
あ、そうゆうやつなのか。