第3章 聖女の力
離して欲しいのに、ずっとこのままでいたい気もする。
長い長い10分間。
「うん。なるほどなるほど…
いや、面白いな~…数値化出来たらもっといいんだけどなぁ」
阿部ちゃんが1人で満足げに呟き、私の左手は解放された。
握られていた左手を自身の右手で包み、ほっと胸をなでおろした。
けれど、続いた言葉に私は呆然とする。
「んーと、じゃあ、次は30分?
でも手が塞がっちゃうと不便だよね……
いっそのこと腕でも組んじゃえば両手で本も読めるかな……
もっと近くに行ってもいい?」
「こっ、これ以上!!!???」
私が動揺して声をあげると阿部ちゃんは、くつくつとお腹を押さえて笑い始めた。
「…………か、からかってます?」
「うん。ちょっとだけ、ね。
俺ね。異世界って正直、全然わからなくて……。
お金だって、空の天気だって、この本だって、今いるここは俺には見たことがない世界なんだって。いくら調べても明らかなんだけど、どこか実感ができてないんだ。
本当に実感してしまうときっと不安でおかしくなっちゃうと思う。
でも、Snow Manの仲間がいて、ファンだって言ってくれてる葵ちゃんがいる。それが結構嬉しいんだ。
俺、まだアイドルじゃんってさ」
「……帰りたい、ですよね」
「うん。
ファンのみんなに忘れられないうちに帰りたいなぁ」
「阿部ちゃんはずっとアイドルですよ」
「そう、だね~」
少し曖昧な返事をしながら、自身の襟元を弄っている。
いやいや。めっちゃアイドルじゃん。
笑顔、最強。凶器。
「じゃあ、帰るためにも頑張らないと、だね?」
「え?」
「30分、やってみようね?」
「……え?」
ひ、ひぃえええ~。